生々

香の煙が空中でうねって、わたしを脳内世界に誘いました。 現実なんかよりも、ずっと広大で、入口も出口もありません。 こんな雲のような気持ちの良い場所で、誰かと同化したって、そのときはもうすでに、わたしも誰かも存在しないのだから、逝かないほうが...
 

ルービックキューブ

心臓が鼓動するみたいにして、カチカチと音が鳴る。 側面に見せる色を変えて、きみと、話をした。 色が反射して、とても綺麗だ。 向こう側に隠れた色も、僕に見せてよ。
 

太陽を思い浮かべながら眠るなんて

太陽を描きたくて、ただそのままに太陽を描きました。 心なしか光を失った幾何学模様が現れて、捉えたばかりに、きっともう、変わってしまいました。 今更気付いて、夜中の布団の中で、ぼんやりと、そのままを思い浮かべていました
 

宙ぶらりん

途切れ途切れになりながら、弾いた音を真似する右手。 ひとつに束ねられていく時の傍ら、取り残された左手に恋をした。
 

大衆の月を抱く

月には大衆という意味があるらしいです。 多くの人が夜に憧れ、月の引力に惹かれます。 堕ちるのは簡単です。 堕とすのも簡単です。 けれど月を抱きながら、何かを堕とすことなく、存在を保つことはとても難しい。
 

人間鮮度

「見てよ、この、鮮やかなほうれい線を。」 「いいね、その表現。」 彩豊かに生きましょう。
 

小さな手

「純粋な本能のままに、生まれてくるのが僕ら。本来の姿でそのままに生きるのも、愛する力を育てながら生きるのも、自由。」 なのだそうで、わたしの理想とやらは、単なる自分勝手に過ぎませんでした。 「愛してるって何なん?」 欲望に忠実なその人はとて...
 

月の砂

運命なんて存在しない。 と、知った月は嬉しくなった。 これからは話をしよう。 夜空を見上げて鳴いている白猫が 眠りにつくまで。
 

きっとここは持つものの世界

黒くてごつごつとした洞窟内には、目が眩むほどの色彩で宝石が埋まっていた。 彼らは陽気な声で笑い、歌い、手を取り合って会話をしては、家族のように繋がっている。 その空洞の、真ん中を歩くのは寒かった。 ここは僕が通るための道ではない。 がらんと...
 

2人乗りのオセロ

朝、通勤、登校時間帯。 デリバリー用の荷台が付いたバイクに、親子が乗っている。 どこかにっこりと誇らしげな表情を浮かべながら、すくっと前を向いて運転をする、父親の後ろで、少しだらしなく首を傾け、スマホに夢中の女子高生。 同じバイクに乗りなが...