赤信号にならないうちに渡切ろうと、トラックが坂道を猛スピードで登っていった。
荷台が錆びついている古いトラックで、ガタガタとけたたましい音に、タイヤが取れるんじゃないかと心配になる。
仕事の時間に遅れそうなのか、家族が病に倒れて駆けつけるところなのか、何らかの事情があるのだろうと想像を巡らす。
トラックが過ぎ去ったすぐ後には、年配の男性が、こちらも古い自転車をキコキコと音を立て、ゆっくり、ゆっくりと坂を登っていた。
同じ時間、同じ場所で、それぞれがまったく異なる時の流れに、身を置いていることを感じる。
私は今どこにいるのだろうか。
そんなことを考えながら空を見上げると、トラックを迎え入れた信号機が、私の目の前で、赤に変わった。
「今は停止か。」
道路沿いの一軒家の庭で、カラス避けに作られた風車が、カラカラと音を立てて回っている。
乾いた音が冬の空気を強調させていた。
私が徒歩で坂を登り切ると、頂上ではお年寄りが列をつくり並んでいた。
ちょうど到着したバスに乗り込んでいくところだ。
白い髪をしたそれぞれの背中に、私の知らない歴史があることを感じる。
通常よりも長めの停車時間。
赤信号を見て、行き詰りを感じていた私は、スタスタと坂道を登ってきた。
まだまだ軽快な私の足取りをどこか申し訳なく感じながら、バス停を通り過ぎる。
私も白い髪になる頃には、今とは異なる時の流れに、身を置いているのだろうか。
平坦な道に、足を前に出すことすら、思う様に出来ないのかもしれない。
軽快な足取りで後ろから追いつく若者に、それでも凛と背中を向け歩く、白髪頭の自分を想像した。